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 木工入門コラム カンナの花

   01.  カンナ屑


   『 01. カンナ屑 』

何年か前の話だけれど、祖母の誕生日に、自分で挽いた「カンナ屑」を贈ったことがある。

祖母は明治の生まれで、進学のために北九州から単身で上京してきた。彼女の年代ではめずらしく美術大学を卒業している。とてもおしゃれで上品な人だ。

ぼくが小さい頃は何となく近寄りがたい存在で、祖母の家に遊びに行ってもいつも少し緊張していた。部屋には彼女自作の花瓶や食器がたくさん飾ってあり、それらを見ながら「こういうものを自分で作ることが出来るんだ」と思ったことを覚えている。
毎年夏になると鈴虫を籠に入れて分けてくれた。耳に残る涼しい音色と東京の秋がぼくの記憶の中でセットになっている。

テレビ番組などで大工の棟梁がシャッと屑を飛ばすように挽いているのは針葉樹の松や杉なのだけれど、この時のカンナ削りには広葉樹のナラ材を使用することにした。写真はすべてナラのカンナ屑だ。針葉樹に比べると少し硬い感じの屑が出る。どんなに薄く削っても木材らしい模様が消えない良さがある。

とにかく美しい鉋屑を出すことだけに集中して、可能な限り幅広く、長く、均一に削った。祖母ならこのようなプレゼントでも喜んでくれると思った。

削り出したカンナ屑は、軽くたたんでビニール袋に入れ、祝いの言葉と一緒に送った。
昔は、一人前と認められた職人が、それまでに世話になった人に対してカンナ屑を贈る風習があった。おかげでここまで成長することができた、という意味をこめて、向こうが透けて見えるようなカンナ屑を用意したそうだ。多少言い訳っぽくそんなことも手紙に書いた。

祖母はそのプレゼントを想像以上に喜んでくれた。彼女から葉書が届き、

「冷蔵庫の扉にあなたからの美しい贈り物(かんなクズだなんてとても言えません)を飾って、いつも眺めています。遠くにいるあなたを思いながら」

とあった。

カンナ屑を冷蔵庫の扉に飾ってくれたというのが嬉しかった。母もそうなのだけれど、冷蔵庫にメモや新聞の切り抜きや詩なんかがべたべたと貼ってあって、その一画にぼくのカンナ屑がある。その情景が簡単に想像できた。冷蔵庫とカンナ屑。彼女は扉を開けるたびにぼくのカンナ屑を見る。

祖母とはこのお正月、一緒に初詣へ行った。とても元気で、昼食なんかぼくと同じだけの量を注文した。人込みの中、にこにことぼくの手を取って一緒に歩いた。

松虫草

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