mokkô column
『 02. 導突鋸 』
その使い勝手の良さから、木工をやっている者の間ではポピュラーで非常に重宝されていても、一般の人にはほとんど知られていない道具がけっこうある。
今回紹介する「導突鋸(どうつきのこ)」もそんな道具の一つだ。
小学校に上がったばかりの7歳の誕生日に、父に連れられてホームセンターへ行った。プレゼントに大工道具が欲しいとぼくが望んだからだ。 二人で店内を見て歩き、ノコギリとペンチと釘、ベニヤ板を2枚、赤い工具箱、それから白と黄のペンキを買ってもらった。
ホームセンターの中を見て回るのはその時が初めてだった。今とは違って店内はちょっと薄暗く、たくさんの道具と資材が溢れるように並べられていた。いろいろ見てみたい気持ちもあったけれど、知らないにおいと雰囲気が漂っていて何となく怖い感じがした。
もちろん、そのころから木工職人を目指していたというわけではなくて、ただ単にハサミやセロハンテープやダンボールを使った工作の延長として、ノコギリやベニヤ板を使用してみたかった。確か、おもちゃを入れる箱か何かを作りたかったんだと思う。
その時買ってもらったノコギリは、折りたたみ式の木工用ノコギリだった。木工用とはいっても用途欄を見れば金属以外なら何でも切れるみたいに書いてあるノコギリだ。万能ノコギリとも呼ばれている。
いまでもよく覚えているのは、そのノコギリでベニヤ板を初めて挽いた時に感じた重さだ。ガリガリガリッと挽くたびに大きな抵抗がある。切れることは切れるのだが、イメージしていたのとはずいぶん違って、1センチ切り進むのにも一苦労だった。鉛筆で描いた線はおが屑で見えにくくなるし、挽き跡は左右にぶれて、とてもまっすぐには挽けなかった。挽けば挽くほどノコギリは重さを増し、切り口は荒く、ときどきノコと一緒にベニヤ板が動いてしまう。
ベニヤ板を切ることは、はさみで紙を切るのとはわけが違った。あまりにも大変で、結局箱を完成させることはできなかった。今思うと、7歳の子供が使うノコギリとしては、一枚一枚の刃が大き過ぎたんだと思う。 刃の大きいノコギリは切断速度が速いという利点があるが、そのぶん挽く時には大きな力が必要になる。 鋸挽きはビリヤードのキューを扱うのと同じで、動きにぶれがないことが大切なのだが、その時のぼくはただ力まかせに挽くだけで精一杯だった。そんな状態でうまく切断できるわけがなかった。
それから15年後、ぼくは職業訓練校主催の木工体験教室に参加した。
生徒は20名ほどで、小さなスツールを2日間で完成させる短期プログラムだった。材料から工具まですべて用意してくれていた。ノコギリも玄翁(げんのう:トンカチのこと)もノミも、使いまわすのではなく、生徒それぞれに一式割り当てられていた。3人の講師が丁寧に教えてくれて、料金はほとんど無料だった。
そしてここで、面白いくらい良く切れるノコギリを使わせてもらった。7歳のぼくが想像した通りか、もしくはそれ以上の道具を、ぼくは手にすることができた。
それが導突鋸だった。
とにかく軽かった。そして扱いやすい。簡単にまっすぐに挽けるとまではいかないが、慎重に刃を動かせばそこそこ思うように挽くことができた。練習すればもっと上手に使えそうだと思えた。刃は非常に細かく、刃厚も0.3ミリ程度と薄い。驚くほど切り口がきれいだし、音もそれほどうるさくはない。余計な力を入れなければまっすぐに切れる。
もしあなたがそれほど大きくない木材を切ったり貼ったりして遊んでみたい、小物製作のためにちょっとした木工がしてみたいと思っているのなら、この導突鋸は持っていて損はないと思う。 いくぶん切断速度は遅いが、日常的に大量の木材を切るというのでないかぎり、まず気にならないと思う。
おすすめはレザーソー工業(株)の「レザーソー導突鋸」だ。東急ハンズなどで3000円くらいで買えるわりに、しっかり作られているし良く切れる。
木工関係の本を開いて、鋸挽き技術の基本的なことを押さえておけば、ちょっと練習するだけで使いこなせると思う。最後に一つ。
まっすぐに挽くコツのようなものを書くとすれば、最初の3センチを大事に挽くようにするといい。挽き始め3センチに90パーセントの集中と力を注いでしまってかまわない。
言い換えれば、3センチのまっすぐな溝を作ることができれば、たとえ残り10パーセントの集中と力でも、最後まで何とか上手く挽くことができる。
それは、ノコギリが構造的に、自らが切り開いた道筋を定規にしていくよう作られているからだ。練習でも実践でも、この構造を活かすことを心がければ、おのずと鋸挽きは上手くなる。

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