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 木工入門コラム カンナの花

   03.  職業訓練校木工科 @


   『 03. 職業訓練校木工科 @』

大学4年の春から秋にかけて、ダブルスクールのような形で職業訓練校の木工科に通うことができた。それは木工について知りたくて仕方がない時期とちょうど重なっていた。訓練校のおかげで、ぼくは集中して木工の基本に接する機会を得た。

職業訓練校というものが存在し、そこに木工科があるということを知ったきっかけは、前回に述べた木工体験教室の募集記事だった。新聞の地方欄に載っていた。人気のある教室で抽選になったのだが、運良く受講カードが送られてきた。

大学3年の冬。友人たちは就職活動を始めていたが、ぼくは木工のことばかり考えていた。『木工』への強い思い、憧れに似た思いが先に行き過ぎていた。仕事として木工をやりたい気持ちはすでに固まっていたが、どうやって仕事にしていくのか、いったい何が出来るのか、といったことには具体的な答えを持っていなかった。まだ自分は木工のことを何も知らないんだという自覚はあった。だから2日間とはいえ、実際に木工を教えてもらえることがとても嬉しかった。

職業訓練校は、実際に行ってみるととても魅力的な場所だということがわかった。想像以上の頻度で様々な体験教室や催しものが開かれていた。設備も十分に整っていた。職業訓練という言葉から重たいイメージがあったのだけれど、この木工教室のおかげで訓練校に対する印象は大きく変わった。

受講者はぼくを含めてほとんど全員が初心者だった。嬉しいことに製作するスツールはけっこう本格的なつくりで、講師の一人は「たとえゾウが乗っても壊れない」と言い切るくらい頑丈な構造だった。何よりありがたかったのは、時間的な余裕を持ってプログラムが組まれていたことだった。作業は非常にゆっくりと進行した。理科の実験の時間みたいに、講師たちはひとつ工程が進むごとに全員を黒板の前に集めて、加工方法を実演してくれた。
組み立て作業の実演の際に、講師の一人が木工用ボンドの容器の底を鷲づかみにするように持ち、信じられないくらいの速さでホゾ穴にのりを適量注入していく姿は、ぼくの目に鮮烈に映った。

この2日間、道具を使い、木を組み、仕上げ、ロビーで昼食のお弁当を食べたりしているうちに、進路の選択肢の一つとして、訓練校について調べてみようという気持ちになった。ここに入学して木工を学ぶのもいいなと自然と思うようになった。入校案内書は校内にも置いてあったが、残念なことに授業内容と設備以外のことは書いていなかった。
ぼくが知りたかったのは入学資格と願書の受付期間だった。


職業安定所や図書館などで職業訓練校の情報を集めてまわった。本当に少しずつだけれど、訓練校の仕組みや役割や受験の仕方などがわかってきた。
ぼくは夜間部の木工科に入りたいと思った。夕方の6時30分開始、9時終了、というのが魅力的だった。これなら、大学の授業を受けてからでも十分に通うことが出来る。 しかし、他の学校に通う人間に訓練校の入学資格があるのか否かは、どのパンフレットにも書かれていなかった。
「入校者は職を探している者に限る」とだけ書いてあって、そこに込められたニュアンスから察するに、ぼくが入校できる可能性は半々だった。現在仕事に困っているわけではないが、ぼくも職業につなげるために訓練校を必要としていた。

大学卒業まで待つのは嫌だった。今すぐ、少しでも早く木工の勉強がしたかった。道具を買い足しながら独学で小さなものを作り始めていたし、手に出来る木工関係の本や雑誌はほとんどすべて目を通していた。訓練校のことを考えるだけで胸が熱くなるようにさえなっていた。一人一人に与えられた道具箱や作業台、ずらっと流しに並んだ砥石などを思い浮かべてたまらない気持ちになった。

そこでぼくは訓練校宛に手紙を書いた。
大学生であること。それでも夜間部なら確実に授業に参加できること。他に木工を学べる教育機関がないこと。木工を職業にしたいと真剣に考えていること。
そして最後に、○日の○時に直接そちらに電話するので、どうか話だけでも聞いてほしい、と記した。手紙だけだとどうしても杓子定規に断られてしまうような気がした。規則から見たら入校資格はなくても、相手と話すことができれば何とかなるかもしれないと思った。

電話でここまで緊張したことはないというくらいにガチガチになって、木工科担当の先生と話をした。
この時に言葉を交わしたのが、のちに実技を教えてくれることになる先生だった。先生はあっさりと「いいから願書を出してみなさい」と言ってくれた。


続く

職業訓練校 木工科について詳しく知りたい方はこちらが参考になります。
『工房通信 悠悠 "木工技術専門校の案内"』
『離職・転職者のための職業訓練ひろば』
『旭川高等技術専門学院(旧旭川職業訓練校)』

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